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東京地方裁判所 昭和22年(ワ)692号 判決

原告 広瀬篤二

被告 岡田貞四郎 外一名

一、主  文

原告が、別紙<省略>図面表示の東京都板橋区板橋町四丁目千八十三番地中、高原武夫商店前西角公道上に設置された鉄函(a)の中心から東に公道上四十七尺五寸の地点(鉄函(b)(c)間の中心点)及び同地点から更に公道上東に十三尺五寸の地点(鉄函(d)から(e)に向い一尺五寸のところ)から夫々直北に延ばした線と右番地土地の南辺と交わる地点を夫々(イ)点(ロ)点とし、(ロ)点から北に四十五尺の地点東隣佐古太郎所有家屋の柱(f)より西に二尺の距離がある)を(ハ)点とし、同点から(イ)(ロ)の線に平行して西に十三尺五寸の地点((ハ)(ニ)の線と井戸(g)との距離は約四尺)を(ニ)点とし、以上(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を結んだ線内の宅地十五坪一合二勺五才について家屋所有の目的、期間昭和二十一年十一月十三日から同三十一年十一月十二日まで、賃料一坪につき一ケ月金四円二十八銭、毎月末日持参支拂の條件による借地権を有することを確認する。

被告平井は、原告に対し同被告所有の右同番地所在木造瓦葺中二階付平家店舗兼住宅一棟建坪二十七坪余のうち、別紙図面表示の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を結んだ線内の宅地上に在る部分を收去して、右宅地を明け渡せ。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は、被告等の負担とする。

右第二項の判決は、原告において金五万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨及び被告平井が右家屋を收去して本件土地を原告に明渡すまで、賃料支拂の義務がないことを確認せよ。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

主文第一項掲記の土地は、被告岡田の所有するところであるが、これをその西側隣接地とともに訴外曾根田定八が賃借してその土地上に木造平家二戸建店舗一棟建坪二十二坪五合を所有し、原告は、昭和十年頃以來同訴外人から右家屋のうち本件土地を敷地とする向つて右側一戸建坪十坪を賃借していたが、昭和二十年三月三十一日を明渡期限とした強制疎開により右建物が除却され、他に轉居するの余儀なきに至つた。その後原告は本件土地の疎開解除にともない疎開建物除却当時の借主として右家屋の敷地である本件土地につき、右曾根田は、その借地権を放棄しすでに消滅したものとして、その所有者である被告岡田に対し昭和二十一年十月二十二日口頭を以て建物所有の目的で賃借の申出をした。ところが、被告岡田は、これに対し本件土地を第三者に賃貸したからとの理由で原告の申出を拒絶したが、もとより右拒絶は正当な事由に基かないから無効であり、法定期間を経過した同年十一月十三日に右申出を承諾したものとみなされ、原告と被告岡田間に地代家賃統制令にもとずく賃料等主文記載の條件による賃貸借関係が成立したものである。然るに、同被告は、原告の右借地権を否認し、又被告平井は、被告岡田より本件土地を西側隣接地とともに賃借したと称し、原告の嚴重なる抗議に拘らず昭和二十二年二月頃からその地上に本件土地に袴つて前示住宅兼店舗の建築を始め、その頃竣工し爾來本件土地を原告に対抗できる何等の権原なく占有している。そこで原告はやむなく被告等に対する関係で前示借地権を有することの確認。被告平井に対し前示家屋のうち本件土地上にある部分を收去して右宅地を明け渡すこと、並びに、被告岡田から被告平井がその上に所有している家屋を收去して本件土地を原告に明け渡すまでの賃料支拂を求められる惧れがあるので、その義務がないことの確認を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告等の主張に対しては、被告平井が同岡田より本件土地を含む宅地を賃借して使用している事実は認めるが、その他はすべて爭う。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、次のとおり答弁した。

原告請求原因事実中、原告が強制疎開当時の原告賃借家屋の敷地として主張する土地が、原告主張の(b)(c)(d)(e)の鉄函並びに(f)柱(g)井戸の各位置から原告主張の各距離に位することは不知、原告から被告岡田に対する本件土地についての建物所有を目的とする賃借の申出は、昭和二十一年九月十二日以前に数回あつたが、同年十月二十二日口頭を以てなされたことは否認する。その他の事実は認める。しかして、仮りに、原告の賃借申出がその主張の日になされたとしても、被告岡田は同平井に対し疎開解除にともない昭和二十一年六月二十九日本件土地を含む宅地百三坪を建物所有の目的を以て賃貸し、被告平井は、右土地を賃借するや直ちに前記家屋の建築に着手しようとしたが、当時右土地は作付者不明の菜園となつており直ちに使用することができなかつたので、やむなく同年八月東京都王子区赤羽町に材木置場兼切組工事用の小屋を設けて工事を進め、昭和二十一年十月二十二日頃は同所において同工程の四十パーセントの切組を終える一方、同年九月九日からは右敷地に立札を設け、今後作付その他一切の使用を禁ずる旨明示し、同被告が建築用地として使用を始めることを周知せしめたものであつて、原告の賃借申出当時、罹災都市借地借家臨時処理法(以下臨時処理法と略称する)第二條第一項但書にいわゆる本件土地を権原により現に建物所有の目的で使用していたもので原告は右申出をなすことができない事情であつた。又仮りに、右申出の効力があるとしても、すでに被告岡田は被告平井に対し前示の通り本件土地を賃貸使用せしめていたので、原告に賃貸できないのは当然であり、右原告の申出を拒絶するについて正当の事由がある。又原告と被告岡田との間には借地條件については何ら協定がないから、借地條件の決定のない間は賃貸借関係が成立しないことは、賃貸借契約の性質と臨時処理法第二條に相当な借地條件でその土地を賃借することができるとあることよりして当然であり、單に賃借申出の一事を以て法定期間を経過した昭和二十一年十一月十三日借地権は設定されたとする原告の主張は失当である。又仮りに右賃貸借関係が成立し、且つその土地の範囲が原告主張のように十五坪一合二勺五才であるとしても、原告は昭和二十五年七月二十二日の口頭弁論以前は本件土地は十四坪であると主張しているのであるから、その余の一坪一合二勺五才については賃借の申出を欠いている筈であり借地権の設定を受けるに由ないものである。なお、原告は、本件土地につき賃料一ケ月一坪につき四円二十八銭、毎月末日持参支拂という借地條件の確認を求めるが、かかる借地條件の確定は臨時処理法第十五條、第十八條により裁判を求めるべきで本訴において保護を求めえないと述べ、被告岡田と訴外曾根田間の本件土地賃貸借契約が昭和二十一年四月合意解除されたとの主張を撤回し、以上、いずれの点よりしても原告の本訴請求は失当であると主張した。<立証省略>

三、理  由

原告主張の宅地を含む土地が被告岡田の所有にかかり、これをその西側隣接地とともに訴外曾根田定八が賃借してその上に木造平家二戸建店舗一棟建坪二十二坪五合を所有し、原告は、昭和十年頃から同訴外人から右家屋のうち向つて右側一戸建坪十坪を賃借中、昭和二十年三月三十一日を立退期限とした強制疎開により右建物が除却されるに至つたことは当事者間に爭がない。

しかして、証人塩野民三郎、曾根田定八、高原武夫の各証言、原告本人第一、二回訊問の結果から、原告は、本件土地の疎開解除にともないここに復帰することを念願し、直ちに被告岡田にその借用方を申し入れ、又右曾根田定八に借地継続の意思のないことを確めたうえ、所轄板橋警察署生活相談所え示談による解決を求め、或は数度にわたり被告岡田を訪いその借用方を懇願し、たまたま罹災都市借地借家臨時処理法の施行を見るや、さらに、昭和二十一年十月二十二日右曾根田等と同道して被告岡田方に赴き交渉を累ね、その折、被告岡田からその承諾を得ることができなかつたが同被告に対して原告から賃借の申出があつた事実を認めることができ、右認定に反する被告岡田本人訊問における供述はこれを信用することができない。

右申出の効果について考えるに、まず右認定の経緯や弁論の全趣旨から、右申出の当時、すでに右曾根田は被告岡田及び原告に対し前示借地権を放棄する旨の意思表示を了しおり、その借地権は存在しなかつたものと認められるから、原告が直接被告岡田に右申出をなしたことは適式である。さらに、被告等は被告平井が権原により建物所有の目的ですでに本件土地を使用していたと主張し、同被告が被告岡田から昭和二十一年六月二十九日本件土地を含む宅地百三坪を建物所有の目的で賃借したことは両被告本人訊問の各結果から眞正に成立したと認められる乙第一号証及び右被告等本人訊問の結果からこれを認めることができ、被告平井が右借地後直ちに居宅兼店舗の建築に着手せんとしたが、当時右土地には作付者不明の菜園がありすぐ使用することができなかつたので、やむなく同年八月東京都王子区赤羽町に材木置場兼切組工事の小屋を設けて切組工事を進め、昭和二十一年十月二十二日頃同所において全工程の四十パーセントの切組を終える一方、同年九月九日から本件敷地には立札を設け、今後作付その他一切の使用を禁ずる旨立札により明示し、同被告が建物用地として使用し始めることを周知せしめさえした事実を証人堀越克藏の証言により眞正に成立したと認められる乙第二号証及び同証言と被告平井本人訊問の結果の一部からこれを認めることができる。しかしながら、前示原告申出の当時において被告平井が建物所有の目的を有したことは右認定事実から明らかであるも、右切組が本件敷地を離れた前示都内王子区赤羽町で進められているのに加えて、本件敷地については未だ礎石工事等の着工によるその土地の使用がなく、ただ建築用地として使用する旨立札をしたに止まるわけであるから、その程度では被告平井が当時建物所有の目的で本件土地を使用する者といいがたく、同被告は、前示法律第二條第四項にいう第三者に対抗することのできない借地権者と認定すべきである。しかるところ、被告等は、前認定の被告等間の賃貸借契約が存在することをもつて原告の申出を拒絶するについての正当の事由なりとも主張するも、これのみでは左様認めることができがたく、したがつて、右原告の申出によつて、原告が疎開前使用した敷地について原告と被告岡田間に借地関係が成立したものと認定するを相当とする。

被告等は、右申出あるも原告主張の條件による借地権の成立を爭い且つその申出の効力をも否認するが、前示法律第二條第一項には賃借の申出をなすことにより相当な借地條件でその土地を賃借することができるとあり、相当な借地條件が如何に形成され或は約定されるかを明かにしないが、本法の成立の経過及び目的にかんがみるときは、土地所有者は前示申出によつて相当な條件による賃貸借契約を強制されるべく、他方、申出者もその申出にあたり借地條件についての意思表示をとくに必要とせずに有効な賃借の申出をなすことができ、その場合潜在的に相当な條件による借地関係が成立し、その後当事者間において約定し或は同法第十五條以下による手続を経て右條件が具体化されるものと解すべきで、右認定の申出の効力を左右することはできない。

よつて、右借地関係について、まずその敷地の範囲が問題であるが、原告主張の(b)(c)(d)(e)の各鉄函及び(f)の柱、(g)の井戸の存在と各位置については当事者間に爭なく、証人塩野民三郎の証言及び原告本人第一、二回訊問の結果を綜合すると右各位置から原告主張の距離に位する主文第一項掲記の範囲を有する宅地十五坪一合二勺五才をもつて本件土地の範囲と認定すべきである。被告等は、当初、原告は右のうち十四坪についてのみの借地権の設定を主張し、昭和二十五年七月二十二日の口頭弁論期日において始めてこれに一坪一合一勺五才を附加主張したのであるから、その拡張部分については借地権設定の効果がないと抗爭するが、原告が当初からその從前使用した敷地について借地権の設定を求めていたことは、前認定事実から明らかであり、又原告主張の敷地と右当初主張の敷地とがその位置範囲において殆んど合致する以上、その申出は同一性を有するものでとくにそのうちの十四坪に限つて原告が借地権の成立を希望したことを認めるに足る証拠がないから右抗弁を容れることができない。

つぎに、その賃料に関しては、その成立に爭のない甲第一号証により本件敷地の賃貸價格が坪六円であることを認めることができるから、地代家賃統制令及び昭和二十五年八月十五日物價廰告示第四七七号により右土地の停止統制額を一坪につき一ケ月金十円五十七銭と認めるところ、現下都内において地代はその停止統制額の最高限度で取引約定され、告示の変更に当つては、特別のとりきめのない限り、賃貸人において賃借人に対し当然その賃料の右最高限度までの増額を請求できる慣習法が存在することは公知の事実であるから、被告岡田は当然右賃料を請求し得べきところ、原告は旧告示による一ケ月坪四円二十八銭の賃料を主張し、被告岡田において右改正告示による賃料を主張せざる故、これまた相当な借地條件として認容すべく、その支拂期及場所についても民法所定により毎月末日持参拂となし、又その期間については前示罹災都市借地借家臨時処理法に從い前示申出後同法所定の期間満了のときである昭和二十一年十一月十三日から同法第五條による十年の存続期間即昭和三十一年十一月十二日までとなす原告主張の借地條件はまことに相当であり、ここに原告が右認定の借地権を有することを確認する。

また、被告平井は同岡田より本件土地と西側隣接地をともに賃借し、昭和二十二年二月頃からその上に本件土地に袴つて木造瓦葺中二階付平家建店舗兼住宅一棟建坪二十七坪余の建築に着手し、その頃竣工して爾來本件土地を占有していることは当事者間に爭ないところであるが右認定事実から同被告は本件土地を原告に対抗できる何等の権原なく占有していると謂わねばならず、從つて、原告に対し右家屋のうち右土地上に在る部分を收去してその部分を明け渡す義務があるものとする。

なお、原告は、本件土地につき被告平井がその上に所有している家屋を收去して原告に明け渡すまで、原告には賃料支拂義務がないことの確認を求める。しかして、賃貸借契約により賃借人がその使用收益の対價として賃料を支拂うべき基本の法律関係を生ずるものであるが賃貸人がその使用收益をなさしめないときには賃借人はその期間に対應する賃料の支拂をなすことを要しないものであるから、原告に右支拂義務を免れることは勿論であるが原告は賃料支拂を求められる惧れがあることなどにつき何ら立証がないから右請求は敢て判決により確認を求める利益を欠き失当と謂うべきである。

よつて原告の本訴請求中、右部分は失当であるからこれを棄却し、その余の請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條、第九十二條、第九十三條、仮執行の宣言について同法第百九十六條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡悌次)

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